講演内容
LAMP法が拓く新しい遺伝子検査─開発者が取り組む「LAMP法」の挑戦─

 開発の経緯

 遺伝子検査は、ラジオアイソトープ標識した DNA プローブを用いたハイブリダイゼーション法により行われていた。1980年代後半頃には、 PCR 法や NASBA 法などの原理的には1分子の核酸も検出可能な遺伝子増幅法が相次いで開発されると遺伝子検査は本格的に利用されるようになった。遺伝子検査には遺伝子増幅法が欠かせない技術であり、社内でも増幅法自体の考案から研究が進められた。当グループは、数えれば10種以上の増幅原理を考案したが、原理面の欠陥があったり、既に特許が存在していたりした。またいくつかは実用レベルには達しない程度のものであった。やはり PCR と比肩するような技術は出尽くしており無理ではないかと思われたが、これまでの数々の経験により、考え方の方向性はかなり明確になってきていた。あるものを壊す反応ではなく、無いものを新たに作る反応系であること、一定温度での反応であること、従来の方法にないメリットがあること、反応系自体がシンプルであることなどである。

  あるとき、DNAの3'末端をループを作って自身にハイブリダイズさせると、自己を鋳型とした合成が進むことをあらためて認識した。この構造にするには、鋳型そのものに相補的な部分が必要なので、プライマーの5'末端にその相補部分をあらかじめ結合させた、インナープライマーの構造を考案した。 本構造を持つセンス鎖、アンチセンス鎖の両方のプライマーと鎖置換型酵素を使用したときの反応について、シミュレートして紙に書き続けていったところ、うまい具合にLAMP法の起点構造ができ、そこからサイクル反応がおきることがわかり、LAMP法の原理図を書き上げた。

LAMP 法の今後の展開例

  簡便、迅速、正確である LAMP 法の特徴は、環境の整っていない途上国でも有効に利用される可能性がある。例えば、結核は世界の衛生上の最大の脅威の一つであり、世界人口の約 3 分の 1 が感染しているが、とりわけ途上国で罹患率が高い。結核菌検査として喀痰塗沫検査が最も普及しているが感度、特異性が十分ではなく、また培養法は、感度は高いが日数を要することや、また実施できる地域、施設が限られている。我々は非営利基金である FIND (Foundation for Innovative New Diagnostics) と途上国でも実施可能な精密検査法の開発を行っている。本法では、操作の簡略化を抽出、試薬調製において行い、また試薬の室温保存できるよう改良を行った。検出は蛍光目視検出を採用した。

  なお塗末検査すら行っていないような地域では、よりシンプルで簡便な方法の開発を行う必要がある。われわれは「ユビキタス LAMP」と名付けた、いつでも、どこでも、だれでも使うことが可能なデバイスの開発研究を鋭意行っているところである。このようなデバイスは途上国だけではなく、先進国においても「現場での検査」のプラットホームとして役立つものと期待している。

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