特別インタビュー1
Interview1中山 哲夫先生
開業医による麻疹の迅速診断と治療が可能になる日も近い
 麻疹に対しての印象と言えば、一般的に「ワクチンで抑えられる」、「そんなに怖い病気ではない」、といったところではないだろうか。
 しかし、日本では、20万人の子供たちが麻疹にかかっているという現実がある。
 「経済的に発展している先進国にあって、ワクチンの摂取率が低く、まだ麻疹患者が多いということは、極めて恥ずかしい」という中山先生の意見にも頷ける。だからこそ、なのだろう。中山先生の研究テーマはずばり「麻疹撲滅」なのだ。

 麻疹を研究されるようになったきっかけは、大学を卒業し、出張病院での研修期間のことだった。「小児科に入り、一番最初に診た子供が、麻疹を起こして、脳炎を引き起こし、痙攣している子供でした。その時の印象が鮮明にいつまでも消えることがありませんでした」
 その後、臨床畑を歩むことになるが、その経験は消えなかった。そして、全く改善されない、麻疹治療の現状に憤りを感じ、中山先生は麻疹について、根本的なところから勉強しなければいけない。そういう思いを抱きながら、基礎研究へと入っていくことになる。
 麻疹はワクチンを受けず、感染してしまうと厄介だ。熱が出て、麻疹と診断するのに時間がかかるため、検査結果が出るまで入院させてしまう。そうすると病院の中で、麻疹がバッと流行してしまうことがある。ワクチンの徹底はもちろんだが、感染者の拡大を防ぐにはどうしたらよいのか。「それは、まさに迅速な診断です」と中山先生はきっぱりと言う。

 では、何が必要か。それは、迅速診断を開業医で行える検査キットということになる。
 インフルエンザでは、すでにそれが現実化されており、総合病院に検査を依頼しなくても、開業医自らが検査を行い、治療できるようになっている。

中山先生はここに、麻疹の感染拡大を抑制できる鍵があると力説する。
「医者自らが、検体をとって、検査をして、治療につながっていく。自分の診断と、ウイルス薬の裏づけと治療とが全部つながっていく。それは医者にとっての喜びでもあります」
 つまり、医者の意欲を掻き立てる簡便な診断方法の開発が必要だということ。そうすれば、「最初の診断で麻疹を見極めることができ、具体的な感染者対策の第一歩が踏み出せることになります」と結論づける。

しかし、これまでの現状はどうだったか。
「ウイルスを分離するのに、2週間かかり、血清抗体を自分で測定しても半日はかかってしまう。臨床の先生が半日つぶすわけにはいきません」
そこで、早く確実に臨床検査できるキット、すなわちLAMP法への必要性が高まってきたわけだ。

中山 哲夫先生
RNAの抽出から結果が出るまで約60分
 「LAMP法は、RNAを抽出して、試薬を混ぜるだけで、約60分で結果が出てしまいます」 と驚いた顔を見せ、表情をほころばせる。
しかし、問題がないというわけではないようだ。
「現段階では、RNAを抽出しなければいけない。それは開業医にとって難しい作業です。遺伝子を扱いなれていなければ、返って時間がかかってしまう」という。
 「ですから現在では、総合病院の臨床検査室で、検体をとり、RNAをとり、臨床検査室でLAMP法を用いた検査をすることをおすすめします」
現段階では、開業医レベルでの検査を普及させるためにはまだ解決する点があるが、有用性の高さは明らか。それは、「総合病院で院内感染を抑える」という最悪の事態を回避できる可能性が格段に高まったからだ。

最後にLAMP法を普及させるための今後の課題について伺った。
「開業医レベルでの検査の普及のほかに、迅速診断後の治療薬の開発でしょう」インフルエンザのように、迅速診断から治療薬まで、臨床の先生が行えるような流れを完成させれば、麻疹の迅速診断が可能となり、その診断の魅力が普及し、結果的に感染拡大を抑制する可能性を秘めている。中山先生は、こうした理想の現実化まで、もう少しのところまできていると、落ち着いた表情で語ってくれたのが印象的だった。

中山 哲夫先生
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