特別インタビュー2
LAMP法の感度に驚いた!
「LAMP法は西ナイルウイルス感染症の診断に有効だ」。森田先生がそう確信したのは、今から2年ほど前。
森田先生が研究を進めている西ナイルウイルスは、昨年アメリカで、前年の100倍約4000名に感染し、約250名の死亡者を出したウイルスだ。ほとんどの人は熱がでてそのまま直ってしまうが、一部には中枢神経感染を起こし、ひどい場合には脳炎も起こす。症状は日本脳炎とほぼ同じなのだという。
DNA試薬キットの写真
↑DNA試薬キット(栄研化学)
発症初期は風邪と酷似しているため、通常の診察では判断しにくい特性をもつ。そのため、西ナイルウイルスの感染が認められた地域では、感染者数の増加を防ぐため、遺伝子レベルでの迅速なウイルス検出が必要だ。
そんな時だった。森田先生がLAMP法を知ったのは。しかし、LAMP法に関して書かれた資料を読んだ感想は、「ほんとだろうか」。
研究者の宿命とでもいうものか。疑いの思いを抱かずにはいられなかった。その反面、興味は一層膨らむ。
「高価な機械がいらない。いただいた資料では、PCR法よりも感度がはるかに高い。それも、高価な機械が必要なリアルPCR法と同等の感度を出していたから驚きました」。また、「やってみるまでは信用できませんからね。原理は難しいが、試すことは簡単ですから、早速試してみることにしました」。とにかく自分の目でLAMP法の効果を確認してみたくなり、栄研化学からLAMP法の簡易試薬キットを取り寄せた。
結果は、「最初は感度が悪かった。もうやめようと思ったこともありましたけど、ウチの生徒が『栄研化学のホームページにLAMPプライマーの設計サポートプログラムが掲載されているので、これを使ってもう一回設計し直してやってみたい』と言ってきたので、許可したところ、その時は本当に感度が10倍良かったんです。それで、論文をまとめる気持ちになりました」。
そして、LAMP法への期待を一層膨らませていくことになる。
リアルタイムでモニターできる点も魅力
森田公一先生「安くて早くて感度が高い。検出目的の診断には最適な方法ですね。リアルタイムでモニターできる点も魅力です。まさに画期的な方法です」。
さらに森田先生の目は鋭くなり、こう続ける。
「西ナイルウイルスは一昨年までにアメリカ大陸の半分まで進行し、去年には、ロッキー山脈のふもとまできました。去年は幸いにもロッキー山脈を超えず、カルフォルニアにはまだ進入してきませんでしたが、今年はカルフォルニアにも進入してきたと報告されています。蚊によって感染しますので、来年の夏にはカルフォルニアにおいても爆発的な数の感染者を出す可能性があります」。
西ナイルウイルス、日本にも上陸!?
カルフォルニアと日本の間では、船や飛行機の往来があるので、蚊が日本に侵入してくる可能性は非常に高い。蚊と鳥、鳥とダニの間でも感染を繰り返すため、近い将来、「アメリカから日本へ伝播してくる可能性は高まっています」と森田先生は警告する。
さらに、「大きな規模で感染者が発生すると、一般医療にも影響を及ぼしかねません。去年は輸血や移植によって、60名を超える人が西ナイル脳炎に感染したと報告されています。したがって、日本においても来年あたりは、検査を行ってから、輸血するようにするべきです」と西ナイルウイルス感染の危険性を呼びかける。
「現在、ワクチンの開発に尽力していますが、まだ人に有効なワクチンが認可されていません。ですから、まずは蚊に刺されないようにする。そのためには、蚊の防御も含めて、ウイルスの検出を早くできるようにすることが大切です」。 熱、日本脳炎、そしてヘルペス脳炎と、これらは全て症状が酷似していることから、対応策としては現在、治療的診断しか方法はない。つまり、それぞれのウイルスに効く薬を投薬してみて効果を図っていくしか方法がないということだ。
そのため、西ナイルウイルスを迅速に判別し、他の人に感染しないようにすることが最善だ。そのためにも、「LAMP法は実態を知るための有効な方法のひとつ。今後、各ウイルスに最適な薬が開発されれば、投薬するなどの治療的診断をせずに、迅速で的確な治療を行っていけるはずです」と森田先生は、LAMP法の早くて感度が良いといった最大の特徴に、大きな期待を寄せている。
LAMP法、SARSへの適用も
森田公一先生さらに、森田先生は、西ナイルウイルスだけではなく、LAMP法の重症急性呼吸器症候群(SARS)への適用にも取り組み、研究を進めている。昨年、世界で約8500名ほどの感染者を出し、801名の死亡者を出したSARS。いまだ、十分に確立された治療法や診断法がなく、その開発は緊急課題となっている。
そこで、LAMP法の開発元である栄研化学と森田先生はLAMP法を用いたSARSコロナウイルスの検出試薬開発で共同研究に取り組みはじめた。

SARSコロナウイルスの検出試薬開発にあたっては、患者検体での検証が必須であることから、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス等、熱帯病ウイルス検出へLAMP法の応用を進めてきた森田先生とともに、SARSに対するLAMP法の性能評価等、測定系の最適化を進めているという。
「安価で特殊な機械が要らない、広く使えるという利点は、応用する可能性を秘めています。LAMP法でSARSに感染しているかどうかをリアルタイムで検出することができれば、インフルエンザ、普通の風邪、結核等に感染している人までを隔離するなどといったまきぞい者を出さずに、SARS感染者だけを隔離して感染者の拡大を防ぐことができるでしょう」と森田先生と栄研化学は、世界のSARS対策、撲滅に挑んでいる。
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