講演内容
「高病原性鳥インフルエンザとウイルス診断系の開発」小田切 孝人 先生

 昨年末から今年にかけて日本を含む東南アジア諸国で高病原性H5N1鳥インフルエンザの大流行が家禽の間で起こり、ベトナムやタイではヒトにも感染して23人の死者を出した。3月にはいって家禽での流行が下火になり一旦終息したかに見えた流行が、7月になって再び中国、インドネシア、タイ、ベトナムで発生した。この間、ヒトでの感染例はなかったが8月に入って再びベトナムで3例、9月にはタイで1例の死亡例が確認され、現在感染研においてH5N1ウイルス感染の確認診断とウイルス学的な詳細解析が行われている。

 高病原性鳥インフルエンザは家禽にとって膨大な経済被害を出すばかりでなく、制圧が長期化するとヒトのインフルエンザウイルスとの遺伝子再集合の機会も増え、ヒトからヒトへ感染する能力を備えた新型ウイルスの発生とそれによるパンデミックの可能性が高まってくる。従って、高病原性鳥インフルエンザの早期発見と迅速な封じ込めはヒトでの健康被害を最小限に止めるために最も重要な初動対策である。

 WHO-H5レファレンスセンターに指定されている感染研では、高病原性鳥インフルエンザの流行が始まった2004年の初めから、国内外の感染疑い例、感染例の実験室診断を担当してきた。診断の中心となる手法はH5ウイルス遺伝子を迅速に捉えるRT-PCR法であるが、流行当初にWHOから推奨されたプライマーは感度が低く見逃し例を出す可能性が高かったことから、感染研ではより感度の高いプライマーを設計し、全国の地衛研に推奨し、国内での検査体制の構築のために診断マニュアルを提供した。これら診断系は山口県における流行発生の際に養鶏業者、殺処分に関わった人々の診断に用いられ、早期の終息宣言発令に貢献することとなった。
一方、我々は重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行において、RT-PCRより簡便で迅速に遺伝子を検出することができるSARS-LAMP法を開発し、世界的にも大きな評価を受けた。そこで、この経験を基にして、今回の高病原性鳥インフルエンザの診断のためにH5-LAMP法の開発を行った。この方法を用いてベトナムやカンボジアから入手した臨床検体や京都府の流行の際のカラスや野鳥の検体について遺伝子検出を行った結果、RT-PCRでは陰性と判定された検体から新たに数例の陽性例を検出した。このことから、現時点でH5ウイルス遺伝子検出診断にはH5-LAMP法が最も有用な手法と思われる。

 本セミナーにおいては、国内外の高病原性鳥インフルエンザの流行に際して我々が行った実験室診断の実際とH5-LAMP法の開発およびその実用化に向けた研究などを紹介する。

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