講演内容
「麦類の赤カビ病菌や、果汁中の耐熱性好酸性菌等の検出」中北 保一 先生

 今回、LAMP法を用いた麦類の赤カビ病菌、果汁中の耐熱性好酸性菌等の検出について説明します。

  LAMP法に取り組んだ背景は、工場でも微生物における識別精度をより高められる遺伝子解析技術の模索をしておりました。PCR反応は電気泳動により判定しますが、煩雑であり、工場サイドとしては採用し難い状況でした。一方、LAMP反応は目視判定が可能であり、比較的簡単な遺伝子検査であることで、採用の可能性があると判断しました。また、RMDS(微生物検出装置)で検出した菌がビール増殖菌か否かが、簡便に識別できる新しい技術も探していました。このような背景のもとLAMP法の検討を始めました。

 まず、耐熱性好酸性菌(Alicyclobacillus属)の検出・識別についてですが、ここで紹介するのは標準的なLAMP法の使用法です。しかし、検出までに必要な時間としましては、かなりの短縮となります。この菌の背景は、1980年代半ば以降、欧米において市販果汁の変敗(異臭や混濁)事故が多発し、その原因菌が耐熱性好酸性菌(TAB)ということでした。このTABは本来土壌中にいる芽胞菌で、収穫果実に付着し、搾汁前に洗浄等の前処理を実施しても、完全に無くすことは不可能です。TABの検査も様々な方法があり、感度、精度も違うために、統一検査法が必要ということで、昨年(社)日本果汁協会により策定されました。この菌の特徴は芽胞を有し、発育pH が酸性(至適pH3〜5)で、20〜70℃で発育することです。芽胞菌であるため、通常の熱処理では死滅することがありません。TABに属する菌種は10種以上ありますが、その中で、最も問題になるのがA. acidoterrestrisです。この統一法ではメンブレン法と混釈法・塗抹法を用い、4日から7日の培養を経て、判定するとなっております。そこで、判定結果を得るまでの日数を短くするために、LAMP法を用いた検査の開発に取り組みました。

  まず、プライマーの設計です。Alicyclobacillus属用とA.acidoterrestric用のプライマーを設計しました。検出に関しては、反応液中に10cfuほどあれば、菌の有無を確認することができました。A.acidoterrestric用プライマーを用い、様々な果汁飲料をサンプルとして統一法との比較を行ったところ、統一法陽性のもの(濃縮オレンジ、ピーチ透明果汁、パイナップル混濁果汁)は、すべてLAMP法でも陽性となりました。この検討で、意外にも、LAMP法は果汁などの影響をPCRと比べて受けないと言う印象を持ちました。これらのことから、LAMP法を用いた果汁検査法(翌日判定)を提案し、「LAMP法を用いた耐熱性好酸性菌の判定法」で、日本清涼飲料研究会より奨励賞を受賞することができました。そして、現在、栄研化学とプライマーセットとして広く使用していただけるように検討中です。

 次に、赤カビ病菌の検出についてです。赤カビ病菌の検出は、リアルタイムPCRを利用した方法がヨーロッパで盛んに研究されております。しかし、リアルタイムPCRは高価な機器を使用し、工場等ではなかなか使用できません。そこで、感度の異なるプライマーを二種類用いてLAMP法を行うことで、大まかな汚染度を把握できないかという検討を行いました。小麦の場合の許容汚染度は、汚染穀粒が0.04%以下(2500粒に1粒)で、デオキシニバシノール(DON)が1.1ppm以下という暫定基準が設けられています。

  DON産生で問題となる菌種として、Fusarium.graminearum がよく知られています。また、汚染穀粒中の赤カビ病菌DNA量と産生DON量との相関を示す報告も幾つかあり、その一つに、World Brewing Congress 2004での発表があります。約50ppmのDONを含有する汚染粒中のDNA量と、暫定基準値(1.1ppm)近辺のDONを含有する穀粒中のDNA量で、2桁程度の差があるというものです。そこで、仮に、2桁程度の感度差を持ったプライマーが作製できれば、汚染の度合いを推定できるのではないかと考えました。今回、作製したプライマーITSとTEFは、このITSが検出限界あたり、TEFが暫定基準値近辺の感度を得られれば、成功ということで検討をすすめています。その結果、まだ完全ではありませんが、ある程度期待できる結果が得られています。これらのプライマーを組み合わせた系にて赤カビ検査を行うことが、安全性の増大、そして、協衝契約栽培へのフォローなど、利用者・生産者にとって有益な手段となることを願っております。

 次に、ビール増殖菌の識別を紹介いたします。11菌種を一度に識別可能にすべく、11種のプライマーセットを1つの反応系に組み込むことに取り組みました。11菌種は乳酸菌【Lactobacillus属(4)Pediococcus属(1)】偏性嫌気性菌【Pectinatus属(1),その他(1)】酵母(4種)の11種類であります。ここでは、一つのチューブに、この11種類のプライマーセットを投入してLAMP反応を行いました。その結果、問題となる11種類の対象菌に関して、すべてLAMP法で陽性となりました。このことは、一つ一つの菌をそれぞれ測定するのでは、時間もコストもかかり工場での使用は難しいのですが、このような使い方をすれば要望に応えることができることになります。

 以上、原料からビール・飲料製造までの保証を、LAMP法とRMDSのそれぞれの長所を利用して行っております。

 最後に、LAMP法の感想です。PCRと比べて操作は簡単ですが、注意が必要です。特に最初の頃は、コンタミの注意が必要です。ただ、慣れれば大きな問題になることは、無いと思います。また、認識箇所が六ヶ所必要であり、この為、特異性は高められますが、設計できないケースも出てきます。いずれにしても、LAMP法は、「百聞は一見に如かず」と言うところがあり、デモすることで理解はしていただけると思います。今後は、工場等の現場に応用するための更なる簡素化を期待しています。

 まとめますと、LAMP法は短所もありますが、一度試してみる価値は十分にある技術だと考えています。

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